江口カン
福岡県生まれ。1997年、KOO-KI共同設立。映画、ドラマ、CMなど幅広い映像分野で活躍する。2007~09年に世界的な広告賞として知られるカンヌ国際広告祭で3年連続受賞。そのほか東京五輪招致PR映像などを手がける。19年には映画「めんたいぴりり」「ザ・ファブル」が全国公開。大きな反響を呼び、21年には「ザ・ファブル 殺さない殺し屋」が続編として公開を控えている。
※本記事は、2018年11月に取材したものを再編集して掲載しています。
さまざまな映像分野で活躍する江口カンさんは、大学卒業後に福岡を拠点に仲間と映像プロダクションを設立。現在は東京にもオフィスを構え、国内外でユニークな発想や映像が評価されている。
高校時代にたまたま撮った映画の面白さに魅せられて、映像が学べる九州芸術工科大学(現・九州大学芸術工学部)へ入学。江口さんはここで「表現するということは、なんて自由なんだ」と感じたという。加えて建築家を志す同窓生たちから学んだこともある。「彼らは自分をアピールする方法を持っていて、クライアントを上手に納得させる。その仕事ぶりは参考になりました」。江口さんたちは現在でも自分たちで営業に行く。「まだ目に見えないものを提案するわけですから、直接話して信頼関係をつくることが大切です」。
映像づくりでは、カメラやレンズなど機材のランクは絶対に落とさないと決めている。「映像って本当はすごい力を持っているんです。だけど画質を落としていけば、当然その力は失われていきます。機材にお金を掛けたり、良い画を撮るのに手間を掛ければ、感動は大きく違ってきます」と江口さん。
写真提供/ナックイメージテクノロジー
写真提供/ナックイメージテクノロジー
福岡と東京を往復する忙しい毎日の息抜きは自転車。10台ほど所持し、用途に合わせて使い分ける。ときには自分で組み立てることも。こうした自転車好きが高じてつくったのが、40歳を迎えて競輪で再起をかける男の映画、2018年公開の「ガチ星」だ。
さらに2019年には映画「めんたいぴりり」「ザ・ファブル」が公開。福岡の地方局でのドラマが評判を呼んで映画化されることになった。「善人しか出てこない素敵な映画です。子どもからお年寄りまで楽しめるピクサーアニメなつもりでつくりました」と江口さん。映画化にあたってはドラマと同じスタンスを心がけた。博多弁も地元の人が聞いて違和感のないものにし、子どもたちに人気があったキャラクター「スケトウダラさん」(スケトウダラの妖精)も登場する。「このキャラクターは映画らしくないという声もありましたが、映画ってもっと自由なはず。業界の人に向けてつくってるわけではありませんから」。
すべて独学で映像をつくってきた江口さんは、自分でひとつひとつ確かめながら道を歩いてきた。遠回りしたが、その意味はあったと考えている。「面白いものしかつくりたくない。年齢や時代によって面白いものは変わっていくと思うけど、どんなときも映像に対して真剣に向き合っていきたい」。
Q:江口さんのお気に入りの空間は?
水辺の見える場所。福岡の自宅も、東京で滞在するホテルも、窓を開けると目の前に水辺が広がる。落ち込んでいるときは必ず水辺に行って気持ちを落ち着けるそうだ。「名前の『江』も水が関係しているでしょ」と江口さんは笑った。
聞き手・千葉基 文・湯浅玲子
撮影/丹保太郎