フランス「サン・ドニ・プレイエル駅」
(設計:隈研吾)
2024年の夏、パリでオリンピック・パラリンピックが開催され、大きな盛り上がりの中、日本選手たちが大活躍したことは記憶に新しいことと思います。
この大会中、閉会式や陸上競技の主たる会場になったのが、パリ北方のサン・ドニ市にあるスタッド・ド・フランス(Stade de France)で、この会場に集まる観客の足を保証する公共交通手段のひとつになったのが、メトロ14番線でした。そしてスタッド・ド・フランスまで徒歩20分程度のところに新設されたのが、今回ご紹介するサン・ドニ・プレイエル(Saint-Denis-Pleyel)駅で、メトロ14番線の終着駅となっています。
会期中は大勢の観客がこの駅を利用し、万全の警備もあいまって、大きな混乱もなく、無事日程をこなすことができました。
ところで、パリ圏のメトロの従来の駅といえば、駅舎は無く、簡単な地上出口があるだけだったのですが、このサン・ドニ・プレイエル駅は、地下30メートルに掘り下げられた5階建ての構造を持ち、その中央には大きな吹き抜けとなっている豪勢な造りとなっていて、メトロ駅というよりは空港ターミナルを思わせるような、破格の規模を持っています。
この駅を設計したのは、日本の代表的な建築家の隈研吾氏です。2015年に隈氏が本プロジェクトの設計を受注し、ほぼ10年後に竣工に至りました。
この駅には、隈研吾氏の建築の特徴が随所に見られます。最も目に付くのは、建築の随所に張り巡らされた木材の装飾です。また自然光を重視して、地下にまで光が届く吹き抜けを中央部に設けています。
また、「人と人をつなぐ仕掛けとしての駅設計」というコンセプトに基づき、「鉄道による市街地の分断という難問を解消した天才的な発想」との高い評価を得ています。
オリンピックが終了した今、この駅を訪問すると、巨大な駅の規模に対して乗客が僅かにいるのみで、8台並列されたエスカレーターなどは一体何のためのものかと思ったりもします。
実は、現状は14番線だけが運用されていますが、今後2年間に、15、16、17番線が開通する予定です。これらの路線は、「大パリ構想」に基づく、パリ周辺部の鉄道網の充実計画に沿ったもので、サン・ドニ・プレイエル駅は、これらの路線の全てをまとめるハブの役割を果たす中核駅となることが計画されています。今後多くの乗降客が使用することが見通された計画になっています。
今後2年間に、この駅には著名彫刻家による装飾が施され、屋上の緑地化、建物内のショップやレストランの充実が予定されていて、ますます注目を集める存在になりそうです。この駅を訪問するだけでも充分観光の価値がありそうです。