パリ ラ・ロッシュ邸、ジャンヌレ邸
(設計:ル・コルビュジエ)
今回も前回(9月号)に続き、ル・コルビュジエが設計した、パリ市にある住宅建築をご紹介します。前回はル・コルビュジエの自邸でしたが、今回は建主の注文に応じて設計した住宅です。また自邸は9階建てのビルの上層階を占めるアパルトマンでしたが、今回は一戸建てです。所在地はパリ16区のオートゥイユ(Auteuil)地区で、この辺りによく見られる、アモー(hameau)と呼ばれる私有地の区画の中にあります。
ギャラリーと、図書室に上がるスロープ。
ラ・ロッシュ邸とジャンヌレ邸は、2人の建主の注文に基づく住宅ですが、外観的には一体になっていて2棟は壁面で接しています。現在、ジャンヌレ邸はコルビュジエ財団の事務所になっているため内部の見学はできませんが、ラ・ロッシュ邸は全館が公開されています。
ラ・ロッシュ氏は銀行家で、美術品の収集家でもありました。ラ・ロッシュ邸は、同氏の自邸であると同時に、美術品の展示館として、多くの来訪者を想定して建てられました。また同氏は独身であったため、自邸部分は単身生活を前提とした設計になっています。
ラ・ロッシュ邸とジャンヌレ邸のあるアモー。
ラ・ロッシュ邸とジャンヌレ邸は、1923年から25年にかけて建築され、サヴォア邸(1928年―31年)や、コルビュジエの自邸(1931年―34年)よりも早い時期の作品となっています。コルビュジエの「近代建築の5原則」(①ピロティ、②屋上庭園、③自由な平面、④水平連続窓、⑤自由なファサード)が初めてすべて揃って実現した作例となりました。
この5原則を確認しながらラ・ロッシュ邸を訪問してみると、まず入り口すぐの場所に「ピロティ」が見られ、1階部分全体が柱で持ち上げられた空間となっています。地面には植物が植えられ小さな庭園となっています。玄関ホールは3階分の高さの吹き抜けで、高い位置にある「水平連続窓」から外光が取り入れられています。ホールからはギャラリーに通じる階段と、プライベート部分に通じる階段が別々に付けられています。ギャラリーは「水平連続窓」で採光され、「自由な平面」が可能にする自由な空間が広がっています。
ギャラリーから図書室に上がる部分には階段ではなく、長いスロープが付けられています。これはル・コルビュジエが提唱した建築のプロムナードというコンセプトに基づいています。
図書室は玄関ホールの吹き抜けに面していて、天井部分に窓をつけて採光しています。他にも近代的な厨房や浴室、斬新な家具類を置いたダイニングや寝室が見られ興味が尽きません。またプライベート部分には「屋上庭園」も設けられています。最後に外に出て両邸を眺めると、そこには「自由なファサード」を見て取ることができます。
ラ・ロッシュ邸は月~土曜日に開館、自由見学またはフランス語のガイド付き見学が可能です。