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スペイン「ア・コルーニャ人間科学館(ドムス)」
(設計:磯崎新)

世界の現代建築を訪ねる旅 ‐9

ペイン北西端にあるア・コルーニャ市(A Coruña)は歴史的に海上交通の要衝にある港町として栄えてきました。今日では県庁所在地となっていて、人口約25万人を数える比較的大きな街です。近くにサンティアゴ・デ・コンポステーラ(キリスト教の三大聖地のひとつに数えられ、有名な巡礼路の終点になっている)があり、多くの観光客が訪れています。2つの街の間は、鉄道でおよそ1時間で移動できます。
 このヨーロッパの西の果てに、日本のプリツカー賞受賞(2019年)建築家で昨年末逝去された磯崎新氏が設計した、ア・コルーニャ人間科学館(ドムス Domus)があります。人間の身体について、その進化過程や人種の特徴、さまざまな機能についての科学的な展示が施されています。

サンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂。
人間科学館(ドムス Domus)正面入り口。

の科学博物館は1995年に竣工されました。街の中心部から北に突出した岬の西側に位置しています。街区からは外れ、浜には大西洋の荒波が打ち付けています。建物の海に面した側が正面となり大きな石階段が広がっています。階段の傍らにはボテロの彫刻「ローマ戦士」がユーモラスな姿を現しています。海側は土台部が石垣構造となっていて、その上に緑がかった細かいスレートで鎧状に覆われた上層部が乗っかった形になっています。この上層部は全体に緩やかにカーブを描き、船の帆を連想させます。
 一方、建物の裏側は、正面とは全く違った様相をしています。花崗岩主体のギザギザした鋸の刃のような凹凸構造を見せています。このように、この建物の外観は平面的な直線構造を避け、曲面あるいは複雑な面の組み合わせによって構成されています。

物館の中に入ると、内面は一層複雑な建築構造が見て取られ、それが展示空間に変化と面白味を与えていることがわかります。ゆったりとつけられた階段スロープ、天井からの採光窓、海側の帆のカーブ構造を反映した内壁など、特徴的な箇所は枚挙にいとまがありません。

正面側をほぼ横から見た「船の帆」構造。
裏面の花崗岩材の凹凸壁面。
入り口に上がる階段から見渡すア・コルーニャ市街。
傍らにあるボテロの彫刻「ローマ戦士」。 
人間科学館内部の緩やかな階段スロープ。
天井採光窓と、カーブを描いた内壁部。

・コルーニャの街は、この博物館のほかにも面白い建築物がいろいろあって、街歩きを飽きさせません。代表的なものとしては、駅から東側の港に沿って延びているマリナ大通り(Avenida da Marina)に建ち並ぶ「ガラスの家並み」があります。ファサード全面が細かい窓枠で覆われていて圧巻です。
 また人間科学館に行く道をそのまま海沿いに進むと、程なく「ヘラクレスの塔」に着きます。こちらはローマ時代に起源を持つ世界最古の灯台として知られています。
サンティアゴ・デ・コンポステーラを観光される機会などがありましたら、ぜひア・コルーニャにも足を延ばしてみてはいかがでしょうか。

ア・コルーニャ マリナ大通りの「ガラスの家並み」。
文・写真/佐藤文子(パリ在住)