パリ「サマリテーヌ百貨店」
(設計:SANAA ほか)
今年6月、パリ市内にまた話題の新しい建築スポットが登場しました。2005年に閉館して以来16年の歳月を経て再開を果たした、サマリテーヌ百貨店(Samaritaine)の建物です。
パリにある百貨店はいずれも歴史が非常に古く、いずれも老舗と呼ぶに相応しい風格を備えています。特に有名な百貨店として、日本でもよく知られているギャルリ・ラファイエット、プランタン、ボン・マルシェなどがありますが、サマリテーヌの創業は実に1869年に遡ります。
サマリテーヌはこれらの老舗百貨店の中にあって、創業以来栄光を極めていたのですが、近年ではやや存在感を欠いた感じがありました。そのためか、今回の新規改装には並々ならない決意が込められているようです。その決意を最も感じるのが、建物そのものの外観にあるように思われます。他のパリにある有名百貨店は、大体はパリの近代の代表的な建築様式であるオスマン様式の建物に収まっていますが、新しいサマリテーヌはそれとは全く別の斬新な建物となっています。
百貨店の周りをぐるっと一周してみるとわかりますが、この建物全体が、3つの異なる建築様式の混成体となっています。
左側がアール・デコ様式、右側がアール・ヌーヴォー様式。
まず、セーヌ河に面した南側は、「新しい橋」と名付けられた「ポン・ヌフ」に繋がっていますが、橋の上から見るサマリテーヌのファサードは、1928年来のかつての建物の様式を引き継いだもので、美しい構成になっています。このファサードはアール・デコ様式と言われています。
窓はガラス面を最大に引き延ばして目一杯採光をしていて、この点は現代的と言えそうです。
セーヌ河の対岸やポン・ヌフから見る景観は昔ながらの景観を忠実に引き継いだものになっています。なお建物の上層部はセーヌ河を見下ろす高級ホテルが入っています。
モネ通り側、アール・ヌーヴォー様式の部分。
対面の建物の映り込みが美しい。
建物を東側に回り込むと、窓枠が黄色く彩色され、そこにたくさんの花柄模様が散りばめられているアール・ヌーヴォー様式のファサードになっています。これは1910年来のオリジナルのものを引き継いでいるそうです。モネ通りと付近の広場では、コロナ下で観光客が少ないとは言え、それでも大勢の人々が建物を見上げて盛んに写真を撮っていました。
この東面を見ながら北面のリヴォリ通りに入っていくと、建物は突然様相を変えます。そこでは、あのプリツカー賞受賞建築家、妹島和世・西沢立衛のSANAAが得意とする、波打つガラスのファサードが付近の歴史的建造物群を圧倒しています。全体に白っぽい風合いで、ガラス面は周りの景観を映して、全く新しい表情をこのカルチェ(地区)に与えています。
こうした斬新な建築デザインの宿命ですが、この建築に対してもさまざまな反対意見が唱えられたそうです。
新装なったサマリテーヌ百貨店は、建築自体の面白味と、内部の店舗・施設の魅力で、間違いなくこれからのパリを牽引していく観光名所となっていくことでしょう。