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フランス・スガン島再開発地域の建築群
(設計:ジャン・ヌーヴェル、ドミニク・ペロー、坂茂)

世界の現代建築を訪ねる旅ー3

パリ西部に広がるブローニュの森、その南側にブローニュ・ビヤンクール市があります。ここを流れるセーヌ河の中州(スガン島)にかつてルノーの自動車工場がありました。1992年に操業が停止され、その後この地域では再開発が行われています。

 
ドミニク・ペロー改装のトゥール・シティライト(ガラスとジュラルミン・パネルの外観)

パリでは、2024年に開催予定のオリンピックに向けて交通網整備が急速に進んでいます。歴史的建造物が多数集まる市の中心部では、原則自動車の乗り入れを遮断し、代わりに歩行者専用道や自転車専用レーンがどんどん広げられています。その反面パリ周辺部では、メトロやトラムなどの公共交通機関の開発整備が推進され、スガン島に隣接するポン・ドゥ・セーヴル(セーヴル橋)では新しいメトロ15番線が建設中です。この線を利用するとパリ北東に位置するシャルル・ド・ゴール空港やパリ南部に位置するオルリー空港に直結し利便性が増します。この付近がパリ南西部の一大ターミナルに発展しつつあります。
 この地区では新しい建物が次々と建設されていますが、既に完成済みの建物だけでもビッグ・ネームが次々と登場して壮観です。

トゥール・シティライト、メトロ工事現場、
ラ・トゥール・オリゾンの全景。
スガン島のラ・セーヌ・ミュジカルと、
セーヌ河対岸のメトロ工事現場。

ャン・ヌーヴェルはここではラ・トゥール・オリゾン(La Tour Horizons)を2011年に竣工させています。ビル全体が素材や色彩が全く違う3層に別れていて、ユニークな建築となっています。歯科医療センターが入る低層部はコンクリート打ち放しで、表面は彫り込まれた複雑な模様が施されています。オフィス中心の中層部は煉瓦造り、そしてレジデンスが占める上層部はガラス造りとなっています。それぞれの層の繋ぎ目の部分にはテラスがあり、緑の植栽が施されています。この自然の植栽へのこだわりは、最近のヌーヴェルの作品によく見られるようです。

ジャン・ヌーヴェル設計のラ・トゥール・オリゾンの特徴ある 3層構造(南西面)

ミニク・ペローが手掛けたのは、トゥール・シティライト(Tours Citylights)。2016年の完成ですが、ここは元々1975年にオフィスビルが建っており、ペローが行ったのはその改装工事です。外装にガラスとジュラルミンのパネルを使用して、太陽光を反射するとパール色に輝く、美しい仕上がりとなっています。また夜間は照明が効果的に建物を浮き上がらせて、幻想的な雰囲気を醸成しています。

坂茂氏設計のラ・セーヌ・ミュジカル(太陽光パネルのある球形ホール)
ラ・セーヌ・ミュジカルからスガン島東部の建設現場を望む。
 

茂氏が設計したのは、既に121号でご紹介したラ・セーヌ・ミュジカル(La Seine Musicale)。スガン島西端に造られた一大ミュージック・ホールです。太陽光パネルを施したガラスの球形の構造や、屋上が一大緑地となっている大ホール、エントランスの巨大ディスプレーなど、ユニークな仕上がりとなっています。
この地区の開発は更に2~3年継続し、スガン島には新たに高級ホテルや現代美術館の建設が予定されていて、今後の発展が楽しみです。

文・写真/佐藤文子(パリ在住)