スイス・バーゼル ヴィトラ・キャンパス その3
会議棟の、深く掘り下げられた地下部分。充分な採光が配慮されている。
今回も引き続きスイス・バーゼルの隣町、ヴァイル・アム・ライン(Weil am Rhein)にあるヴィトラ・キャンパス(Vitra Campus)の建築群から、ご紹介したい建築を3つ取り上げます。
前々回は、2001年にプリツカー賞を受賞したヘルツォーク&ド・ムーロン設計の「ヴィトラハウス」をご紹介しました。地上階にカフェとショップ、2階から上がヴィトラ社の家具のショールームになっている、旗艦的な役割を担った施設です。前回は、1989年にプリツカー賞を受賞したフランク・ゲーリーの設計で、キャンパスのメインエントランス兼展示館であるヴィトラ・デザイン・ミュージアムを取り上げました。
これら2つの建物に並ぶ位置に、安藤忠雄氏が設計した会議棟があります。同氏がプリツカー賞を受賞した95年に少し先立つ93年に竣工。キャンパス全体のエントランス付近に並ぶ、中核的な建物です。この建物を見ると、同氏が設計した瀬戸内海の直島の一連の建築作品との共通性を感じます。地上に現れている部分はコンクリート打ち放しの外壁で覆われていて、周りの自然へのインパクトを最小限に抑えた外観となっています。ところが、建物自体は深く地下に掘り下げられていて、しかも外壁との間の広い堀の効果で、自然な屋外の光が存分に建物の内部に入り込んでいます。直島の地中美術館(2004年)や、李美術館(10年)に先駆ける作品と言えると思います。ヴィトラを訪問した折には、当時建設責任者だったという年配のガイドさんがこの安藤作品に関する面白い逸話をいくつか話してくれましたが、彼自身がこのキャンパスで最も精神的な存在を感じる建物であると言っていたことが印象的でした。
2つめは、妹島和世氏と西澤立衛氏による日本の建築家ユニットSANAA(10年プリツカー賞)が担った、配送センターをご紹介します。この建物は、コンテナが横付けされる工場の倉庫部分なのですが、両氏はこれを巨大な円形に造り、しかも雪のように白く、表面が細かく波打つアクリル樹脂で覆い尽くしたのです。常識的な倉庫のイメージからはほど遠い巨大なオブジェとして仕上げています。ガイドの説明によれば、機能性も充分考慮された施設になっているそうです。
そして3つめは、イラク出身英国籍の女性建築家ザハ・ハディド氏(04年プリツカー賞)設計のユニークな消防施設を忘れることができません。このキャンパスが1981年に起きた火災からの復興を機会に造られたことと深く関係する重要な施設です。規模は大きくありませんが、随所にデザイン性が感じられ、普通の消防施設からは全く想像もつかない建物となっています。