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Fragments of Time and City

かな動きで激しさを表現できるだろうか。また逆にテンション(力)の必要な激しい動きの中に静の要素を見出せるだろうか」。私たちのリサーチはそんな問いから始まりました。2023年9月、音楽とコンテンポラリーダンスの新作を作る第一歩として、英国より来日したチェリスト、作曲家のサイモン・マッコリーとの約2週間にわたるリサーチ。

イモンはチェロでベートーヴェンを弾き、私は床に寝転がり目を閉じて、互いのウォームアップがスタート。サイモンが即興で弾くチェロの音に私も即興で踊り、何度もセッションを重ねるうちに、音に合わせて踊るだけでなく、音に対抗して動く、空間に抗するように踊るというヒントが浮かんできました。

①リハーサルの合間の語らいで見えてくる動きも。大切な時間。

②生演奏の音は身体の芯まで届き、その響きは全身へと広がり、動きが溢れてきます。

③一音、一音に体全体を使いながら、音を紡ぎだすサイモンのチェロ演奏。

間に対抗して動くというのは私にとって初めての身体感覚でした。筋肉には力が入って反抗しているのにも関わらず、心の中は瞑想しているような静の要素も感じました。
 初日のリハーサル、簡易ポータブルスピーカーでは音が割れてしまい、サイモンの音に微弱なノイズ音が加わってしまいました。でも、そんな予期しなかったことも、音楽がまるで荒廃した近未来都市を描くかのような印象を醸しだし、新たなアイデアとして作品のfragments(断片)となりました。

固く冷たいコンクリート床も、サイモンの音色と私の動きと混ざり合い、空間が柔らかくなったようにも感じました。

回の滞在最終日には、福岡市の中心、大名に位置するレンタルスペースOn your marksにて、サイモンとの共作をワークインプログレス作品として発表しました。2015年から始まった福岡中心地の都市開発「天神ビックバン」で日々変化する街並みを背景に踊ることは、サイモンの近未来都市を感じさせる音楽も相まって、私の過去の記憶と未来都市との間を旅するような感覚にもなりました。
 コンクリートむきだしの会場は、空間に対抗して動いてみる挑戦を支えてくれた気がします。ロンドンで出会ったサイモンに、生まれ育った故郷福岡で会えたのは終始不思議な感覚でしたが、彼が見た福岡の街や自然の景色、聴こえてきたカラスや蝉の鳴き声、信号機の音楽など、サイモンが体感した福岡を通して、私も改めて福岡を感じました。

 

ふと体が軽くなる瞬間、サイモンの足指は大地を感じていたかもしれない。

規模なプロジェクトでなくとも、Satokoがロンドンにいる、サイモンがFukuokaに出逢う、という小さな出来事が積み重なり、文化と文化の出会いが生まれるのかもしれないと、今回の経験を通じて感じさせてくれました。次は英国でリサーチを継続したいね、とサイモンと話しています。

アフタートーク。観客と演者が語り合い、共有できた思いは深く豊かでした。

すべての演奏を終えたサイモン。Fukuokaまで来てくれてありがとう。

サイモンとのワークインプログレス作品「Fragments of Time and City」の動画
https://www.youtube.com/watch?v=ujiqBqfqMEM
助成:大和日英基金

Photo by Miyuki Toudou、Tomohiro Hanada(①、②、③)

文・写真
福田智子  Satoko Fukuda
福岡生まれ。ソレイヤジェインズインターナショナルバレエスクールにてクラシックバレエを始める。2013年より英国、ランベールスクールオブバレエ&コンテンポラリーダンスにて学びを深める。卒業後はイギリスを拠点に、ニューヨーク、韓国、フランスでもコンテンポラリーダンスを踊る。
Instagram @satokofukuda_dance @dancersnetwork_jp
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