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今ある音に触れること

023年秋、音楽の聴き方が変わるきっかけがありました。イギリスから友人、そして尊敬するチェリストで作曲家のサイモン・マッコリーが初来日。2021年に申請していた助成金のサポートを受け、世界的パンデミック後、音楽とコンテンポラリーダンスの新たな作品制作の始まりとして、念願の来日が叶いました。

塚本美樹さんのジャズピアノとのコラボセッション。

ベースのアックス小野さんとは、弓の持ち方の話で大盛り上がり!

イモンは録音した音をループさせ、さらに録音した音を加えて、音の層(レイヤー)を重ねる方法を楽曲制作やライブに取り入れています。足元に専用パッドを置いて、足先で器用に録音ボタンを押し、手元ではチェロを奏でる姿は踊っているよう!一層、また一層とさまざまなリズムや音色が重ねられ、聴く人はいつの間にか彼の音楽の世界に入り込んでしまうのです。

録音した音をループできるサイモンの愛用機器。

イモンの提案で、福岡市中央区城内にあるアーティストカフェ福岡にて「Sonic Thoughts Space」という企画を開催。サイモンが住むイギリス、ストラウドで彼の友人が集まり、彼の音楽を流しながら絵を描いているのがこの企画のきっかけでした。アーティストカフェに集う人たちに、自分の創作(クリエーション)について考えたり、絵を描いたり、詩を書いたり、ただ音に浸るだけでもよい空間を音楽で醸し出してみたい、というアイデアでした。

福岡のアーティストが集まるアーティストカフェ。

サイモンの音が空間を作る「Sonic Thoughts Space」

企画終了後に福岡拠点のヴィジュアルアーティストと意見交換。

自身、ダンスのウォームアップの一番初めにサイモンの音楽をかけると、心に余裕が生まれ、安心して自分の身体をゆだねられる空間に居るような気持ちになります。まるでマインドに余白を作り、せわしない日常から、今という瞬間に集中するゾーンへ導いてくれるような感覚です。そんなサイモンの生演奏で作られる空間は、ダンス作品について考える友人や短歌を創る人、音を楽しみに来た人たち、福岡のアーティストさんたちにも好評でした。

ダンサーの動きをしっかりと見ながら演奏してくれるサイモン。

作品作りのために音と動きのリサーチを重ねます。

本でサイモンと時を重ねる中で印象的だったのが、周囲に溢れる音に対する彼の反応でした。「日本とイギリスのカラスは鳴き方が違うね」「蝉が大合唱しているみたいだ」「信号を渡るときの音楽が良いね」と、私にとっては当たり前で、耳を傾けてすらいなかった日本の音を彼は瞬時に拾いあげ、改めてその存在を私に気づかせてくれました。
 自然が好きな彼の音楽は、時として天気のように不規則でありながら、温かい日の光のように寄り添ってくれる音楽でもあります。彼の音や音楽との繊細な付き合い方は、私と音楽とのつながりをより深いものにし、日常にある音に耳を傾けてみる楽しさを思い出させてくれました。

公園を歩きながら身近な音に耳をすませました。

彼にとってチェロは身体の一部のような大切な存在。

文・写真
福田智子  Satoko Fukuda
福岡生まれ。ソレイヤジェインズインターナショナルバレエスクールにてクラシックバレエを始める。2013年より英国、ランベールスクールオブバレエ&コンテンポラリーダンスにて学びを深める。卒業後はイギリスを拠点に、ニューヨーク、韓国、フランスでもコンテンポラリーダンスを踊る。
Instagram @satokofukuda_dance @dancersnetwork_jp
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