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踊る空間を分かち合うとき

2022年はさまざまな規模、用途の空間で踊りました。劇場の舞台、オーディエンスとの距離がグッと近づくジャズバー、もとは酒蔵だった空間や古民家。それぞれの場所が持つエネルギーはとても多様で、ダンサーや観客が入ると、その空間のカタチ、エネルギーが変わってゆきます。劇場では時として、舞台空間でファンタジーやストーリーが展開され、見ている人を別世界へといざないます。また舞台と観客席の間に境界線はなく、その瞬間の空気や空間を共有しているように感じる時もあります。私が踊るとき、観客や一緒に踊るダンサーたちとエネルギーを共有している感覚になり、それを感じられる瞬間は何とも言えない幸せな気持ちに包まれます。

前川國男設計の福岡市美術館は赤茶色の壁が印象的。

くの人にとってより身近な空間でダンスを踊ることで、そんな空気やエネルギーを共有したい、踊りをもっと身近に感じてもらいたい。そんな私の小さな夢のひとつを実現できたのが、福岡音楽都市協議会が運営する企画FUKUOKA STREET LIVEでした。音楽、ダンス、演劇、伝統芸能、大道芸など、多彩なジャンルの登録アーティストには、福岡市内にある「まちなかのオープンスペースでの発表の場」が提供されます。
 福岡市中央区、地元民には馴染み深い大濠公園。大きな池を囲む2㌔の周遊道にカフェや日本庭園、能楽堂も点在し、幼い頃から家族や友人とよく訪れていました。その中の福岡市美術館の入口前にはちょっとしたアプローチ広場があります。〝公園に来たら、たまたま踊ってる人たちに遭遇した!〟そんなことができたら、踊りが少しだけ人々の身近になるかな、なんて思いながら、ダンス仲間Chicaに声をかけました。

公園を散歩する人たちが踊り手たちに出会った瞬間。 

11月、幾何学的な音楽が休日午後の公園に響き渡ります。私たちが踊り始めると、ひとり、またひとりと、踊りをじっと見てくれる人たちが足を止めはじめました。見に来てくれていたダンス仲間も急遽加わり、5人での即興パフォーマンス。時折、自転車を押し歩く人を真似たり、スマホで私たちの踊りを撮る人の前に立ってみました。見る人も踊る人も、知らない者同士がつながるような、同じ空間を共有する不思議な感覚でした。その目に見えないエネルギーは、私たちが動けばカタチが変わり、見てくれる人が動けばまた変わり続けました。その空間は、その場にいた人たちで形つくられているようでした。
 帰り際に小さな男の子が、お父さんに抱っこされてハイタッチしに来てくれました。エネルギーを、あの子と共有できていたのでしょうか。2023年はどんな見えないカタチに出会い、何を分かちあえるのか、今から楽しみです。

竹材を縦横に編んだ壁面が美しい大阪・箕面市立文化芸能劇場の小ホール。 

八女市のVilla ARTISでは、正面に加えて両サイドにも客席を設置。 

青空の下、太陽のあたたかい光を肌に感じながら踊りました。

久留米シティプラザ、奥行きも感じる舞台通しでの一枚。

ジャズデュオVisionsの奏でる音でライブスポットも舞台に。

satochica作品「ハイヒール」。色合いで空間が変化する照明も大切な要素。

佐賀市の旧枝梅酒造。出演者でリノリウムを敷き、舞台空間を設営。

文・写真
福田智子  Satoko Fukuda
福岡生まれ。ソレイヤジェインズインターナショナルバレエスクールにてクラシックバレエを始める。2013年より英国、ランベールスクールオブバレエ&コンテンポラリーダンスにて学びを深める。卒業後はイギリスを拠点に、ニューヨーク、韓国、フランスでもコンテンポラリーダンスを踊る。
Instagram @satokofukuda_dance @dancersnetwork_jp
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