自然の鼓動に触れるとき
写真家 進藤祐光さんによる忘れられない一枚。今でも、左頬に感じた岩の感触を覚えています。
はっと息をのんだ。そこに足を踏み入れた瞬間、あたりはしんと静寂に包まれ、異世界へ入り込んだようでした。
映像作品の撮影のため、熊本、阿蘇にひっそりと、そしてどっしりと根付く杉のもとへ。太く大きな幹から四方へ枝を伸ばし、何百年も前から人々を見守ってきたであろう大きな樹は、私たちの全てを受け入れてくれるような優しい大樹でした。
果てしなく広がる草千里。撮影が進むうちに、テクテクとカメラのフレーム内に現地で養われている馬たちが!
近づいてくる彼らに、内心ドキドキしながら、人生初の馬たちとの共演となりました。
Photo by Hirofumi Noguchi(halo.inc.)
撮影1日目の帰り道。撮影を担当した写真家 進藤祐光さんが車を停めました。夕焼けを背景にも撮りたい、と良い場所が見つかったものの、あいにく空は雲に覆われていました。10月半ばの阿蘇、夕方になり気温も下がってきます。でも、照明家 野口博史さんの「待ってみましょう!」の言葉を信じ、辛抱強く待っていると……次第に雲の合間から奇跡のような太陽の光が!「撮ります!」と言われ私が立ったのは、なんと崖に立つ石の上(笑)。これでもかと吹きつける風の冷たさに震えながら、身体の芯まで凍えましたが、人生で経験したことのない寒さと茜色の大夕焼けに、「生きている」ということを感じた瞬間でした。
2日目の朝、夜明けの押戸石の丘を訪れると、辺り一面霧に包まれていました。しばらく朝日を待っていると、霧が晴れてゆくのと同時に、見事な雲海が現れました。太陽との距離が近く、体全体で感じた日の光のあたたかさに、幸せな気持ちになりました。丘にある大きな岩に横たわった時、今回の作品テーマ「自然と一体化する」ことを肌で感じられた気がします。深呼吸して身体の力が抜けてゆくと、ひんやりとした岩の中に自分の身体が溶けていくような感覚になりました。心臓が脈を打つのを聞きながら、岩の静かなる鼓動も聴こえるようでした。
次に訪れた鍋ケ滝では、どっしりとした岩々に叩きつけられる水の音を背に、水しぶきに光る緑と木漏れ日を浴びながら、落ち着いた気持ちで踊れました。
最後に訪れた大観峰では、太陽が当たり黄金色に輝くススキの中で、風と共に舞う。遠くに見える山々と果てしない大地は、脈々と続いてきた生命の偉大さを感じさせます。時として忘れてしまう、人間も自然の一部であるということ。この生命の原点のような阿蘇を訪れると、あなたにも自然の鼓動が聞こえてくるかもしれません。
文・写真
福田智子 Satoko Fukuda
福岡生まれ。ソレイヤジェインズインターナショナルバレエスクールにてクラシックバレエを始める。2013年より英国、ランベールスクールオブバレエ&コンテンポラリーダンスにて学びを深める。卒業後はイギリスを拠点に、ニューヨーク、韓国、フランスでもコンテンポラリーダンスを踊る。
Instagram @satokofukuda_dance @dancersnetwork_jp
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