今年のミラノサローネダイジェスト
世界最大規模のデザインの祭典、ミラノ国際家具見本市(通称ミラノサローネ)は今年で第63回目の開催となります。米国の関税引き上げ発表直後の開催となり(4月8~13日)、その余波を受けて国際市場の今後の動向に向けて緊張が高まる中でも、302,548人の来場者を記録しました。出展者数は37カ国から2,103で(うち海外から38%)、改めてこの見本市の世界的な注目度と役割を再確認する結果になりました。
2025年の国別来場者ランキングでは中国が1位(6.5%)、ドイツが2位を占め、2024年の家具輸出市場で好調な2カ国のスペインとポーランドが続き、以下、ブラジル、ロシア、フランス、米国、インド、スイスと続きました。アジア圏では日本が全体の1.6%で20位から13位に上昇し、関心の高さを感じさせます。

⑧LVMHグループ傘下で成長するイタリアブランドCalligaris(カリガリス)

⑨オランダ発Moooi(モーイ)のアイコン的照明。
35歳以下の若手デザイナーのみが出展できるサテリテには、37カ国から700人が参加しました。来場者数は39,000人となり、サテリテが新しい才能を求める企業にとって、次世代を担うクリエイター発掘のための、国際的に重要な舞台であることを印象づけました。

⑤フランス人建築家ピエール=イヴ・ロションが手がけた特別企画のインテリア・プロジェクト「ヴィラ・エリタージュ」
今年のサテリテのテーマは「NEW CRAFTSMANSHIP : A NEW WORLD」。毎回、与えられた課題に対し成熟したアイデアと家具の未来について実践的な考察を提案した作品へ、サテリテアワードという賞が授与されます。
そのアワードで栄えある第1位を受賞したのは、日本のデザインスタジオSUPER RATの長澤一樹による「UTSUWA-JUHI SERIES」。歴史と文化を守るために日本の工芸を再解釈したもので、昔から束子(タワシ)や箒(ホウキ)に使われてきた「棕櫚(シュロ)の樹皮」を主な素材とし、日本の伝統的な染色技法「柿渋染め」と、廃棄される鉄屑から抽出した「鉄媒染液」を掛け合わせることで、多様な形を可能にし、環境への生産負荷を削減しました。

④サローネを牽引するイタリアデザインのKartell(カルテル)

①サテリテアワードで1位を受賞したSUPER RATの長澤一樹。

②受賞作品「UTSUWA - JUHI SERIES」
アワード審査委員長パオラ・アントネッリ氏は次のようにコメントしています。
「クラフトマンシップは、人工知能や3Dプリンターが普及した現代においても極めて重要です。それは単に他の民族文化を理解するための手段ではありません。それは何世紀にもわたって蓄積されたもので、自然や生存に関する古代からの知恵を含んでいます。さらに素材や技術が新しいものである場合、手作業によるモノづくりの能力はイノベーションには必要不可欠です」
ミラノサローネは、世界のモノづくりやデザイナーたちの発信の舞台となると同時に、未来を見据えた創造活動に対して新たなインスピレーションを受ける場所になることと思います。

③見本市会場の初日エントランスの様子。

⑥システム収納家具で最高級ブランドのPorro(ポロ)

⑦スペイン発のBD Barcellona(バルセロナ)
写真提供/Courtesy Salone del Mobile.Milano
撮影/Ludovica Mangini(①②)、Giulia Copercini(③)、
Andrea Mariani(④⑨)、Monica Spezia(⑤)、
Ruggiero Scardigno(⑥)、Alessandro Russotti(⑦⑧)
文・写真/
西村 清佳 Sayaka Nishimura
@sayakina_italy
