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オープンハウスに見る
住まいと住み手の関係性

年も6月第1週の気持ちの良い初夏の週末に、街をあげてのオープンハウスが開催されました。日本で一般的に知られているオープンハウスのような個人住宅だけでなく、普段は入れない企業の社屋や公開されていない歴史的建造物、職人の工房などが一斉に無料公開されるイベントです。
 トリノはこれで開催7回目を迎え、街中で150カ所が公開され、どこを訪れても入場待ちの行列という盛況ぶりでした。イタリア人はお国柄、あまり列に並びたがらないという習性を考えると、行列待ちしてでも見てみたいという強い好奇心を感じます。

オープンハウスで配られる街の地図とプレス用パス。
どのロケーションも大行列で入場待ち。

れまでは取材対象を住宅のみに絞っていましたが、今回は企業の社屋や歴史的建造物まで幅広く見学してみました。その結果、参加者の好奇心とオーナーの熱意の間で、一番のシナジーを感じることができたのは、建築家でもあるオーナー自身が丹精込めてリノベした住宅でした。

建築家でもあるオーナー自らがビジターたちにプレゼン。
工場跡の屋根を大胆に切り開いた中庭とプール。「Trinchieri Loft」

でも今回から公開された住宅「Trinchieri Loft」は、住宅部門で断トツの入場者数を記録しました。かつての工場地帯の一角に位置し、トリノの地場産業で知られる蒸留酒ベルモットの工場跡を大胆にリノベした住宅兼ゲストハウスです。中庭の緑とプールを囲むように居住スペースが配置され、工場跡ならではの天井高のおかげで内部まで明るく広々と開放的ながらも、プライバシーは保たれた居心地の良い家でした。

広々と開放的なリビングダイニング。
ニューヨークのようなダイナミックな吹き抜け空間。

う1軒、同じ地域の住宅「SNOS Loft」を見学しました。建物としての歴史は同じく元工場跡で、低層が商業施設やオフィス、最上階が住宅にリノベされた大規模複合施設の中のペントハウスです。ニューヨーク風のスタイリッシュな内部は3層に分かれ、床面積200平方㍍以上ある贅沢な作りになっています。このロフトは竣工時にベルギー人アーティストが購入し、今は売りに出されているとのことでした。

複合施設の低層に入るオフィスも工場跡ならではの大空間。「SNOS Loft」
リノベされた工場跡の最上階が住宅層。

離にしてほぼ真向かいに位置する2軒の対照的なロフト住宅を見学し、改めて確認できたことがあります。「住み手に合ったライフスタイルや生活の質は、不動産価格に比例しない」ということです。
「居心地の良い自分に見合った住まい」とは、それぞれの住み手が自分自身のライフスタイルや価値観を把握し、築き上げていくことで成り立つものなのです。たとえどんな高級住宅を手に入れても、それはあくまで箱でしかないということが、オープンハウスで住まいと住み手の両方を同時に見ることで伝わってきます。家づくりとはすなわち、自分自身を知ることだという思いを新たにした今回のオープンハウスでした。

60年代に流行したダンスホール「Le Roi」
1900年代初頭のアールヌーヴォー様式のヴィラ「Villino Raby」
80年代の商業複合施設を大胆にリノベした社屋「Elitech Group HQ」

写真提供/バルバラ・カポキン財団

文・写真/

西村 清佳 Sayaka Nishimura

東京芸術大学大学院建築理論修了後、イタリア政府給費留学生として渡伊、現在トリノ在住。イベントコーディネーターとして日系企業や日本人デザイナーの見本市や展覧会をサポート、及び取材記事を執筆。私生活では1900年代建造の工場跡の1コマを購入してマイホームにリノベーションし、インスタグラムで工事の経過やイタリアのインテリアの最新トレンドを発信。
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@sayakina_italy