街をあげてのオープンハウス
2年ぶりの通常開催
オープンハウスとは建築家が顧客の了承の元で、物件を引き渡す前に知人やメディアを招いてお披露目する機会です。それがヨーロッパでは新しいムーブメントとして街中の住宅や社屋、非公開の公共施設を一斉に公開する一大イベントになり、イタリアではローマとミラノ、ナポリ、そしてトリノで毎年初夏に開催されてきました。
コロナ禍で2020年は中止、21年は秋に延期し完全予約制だったのが、22年は遂に通常通り予約なしで参加者が好きなように見て回る形に戻りました。今回は初参加で話題を呼んだリノベ住宅3件と、2回目の公開となった筆者宅での出来事をご紹介します。
オープンハウスのポスター。
まずは「LaCasadiCarlotta Oddone」。〝カルロッタ・オッドーネの家〟というタイトル通り、テキスタイルデザイナーのカルロッタがオーナーの住宅です。20世紀初頭に建てられたこのアパートのリノベーションは、色使いに重点を置いています。壁だけでなく、花柄のファブリックやテキスタイルが主役で、カーペットや装飾が住まいを完成させ、様々な色や素材を多用しているにも関わらず絶妙の統一感で居心地の良さを演出しています。
多彩なテキスタイルのリビング。
キッチンのファブリックもカルロッタのデザイン。 「La Casa di Carlotta Oddone」
次は21年に竣工した「Loft 19」。街の喧騒から離れた閑静な住宅街にある元工場跡を、オーナーの住宅兼アトリエとB&Bにリノベーションしています。大きなルーバー窓、コンクリート床、天井の高さがかつて工場跡だったことを思わせ、ヴィンテージとコンテンポラリーを融合させたインテリアが、生活感あるインダストリアルロフトの雰囲気です。
高い天井と大きな窓が旧工場跡を思わせるリビング。 「Loft 19」
そして今回のオープンハウスで話題となった「IlRanch Urbano」。〝都市の牧場〟の名が示すように、かつての工房跡に田舎暮らしのできる空間を作り上げようとした2人のオーナー兼デザイナーが実現した、まるで街中とは思えない別世界なのです。天窓から光が柔らかく差し込むコワーキングスペースと工房を兼ね備え、エントランスのパティオ、緑に溢れるルーフテラス、中庭のサウナ、さらには理想的なツリーハウスまで、視点によってシークエンスを見事なまでに変化させています。
右の幾何学的な木のボリュームが居室空間。
街中とは思えない緑に囲まれた中庭とツリーハウス。
ルーフテラスの樹木越しに街の風景が広がる。
ダイニングと一体化したリビングスペース。 「Il Ranch Urbano」
2回目の公開となった筆者宅「TerrazzaDora」には、2日間で総勢600人ほどのビジターが訪れました。予約なしでの見学が可能になったことで、多くの予期せぬ出会いに恵まれました。近隣のアパートからいつもうちを眺めていたと言うご近所さん、かつて工場だった時代に工員として勤めていたと言う老婦人、近所に住むテレビ界の芸能人、そしてこの工場のリノベ全体を担当した建築家本人まで。
オープンハウスは住居をお披露目するだけでなく、理想とするライフスタイルを周りとシェアし、さらには新しい出会いにつながるきっかけでもあることを改めて実感しました。
ビジターに説明する筆者とスタッフ。 「Terrazza Dora」
筆者宅の見学に訪れたビジター達の行列。
文・写真/
西村 清佳 Sayaka Nishimura
@sayakina_italy