HOME | コラム集 | イタリア通信 | 2年半ぶりのバルバラ・カポキン 国際建築ビエンナーレへ

2年半ぶりのバルバラ・カポキン国際建築ビエンナーレへ

タリア北東部のパドヴァ市では、隔年でバルバラ・カポキン国際建築賞が開催されます。時節柄2019年秋を最後に見送られていましたが、記念すべき第10回が今年5月初旬に半年遅れで無事に開催となりました。
 初日の授賞式には主催者であるイタリア建築家協会ジュゼッペ・カポキン会長はもちろんのこと、『CASABELLA』のフランチェスコ・ダルコ編集長、ヴィチェンツァで開催されるデダロ・ミノッセ国際建築賞の主催者であるブルーノ・ガッビアーニ会長などが参列。特殊だったこのコロナ禍の2年を乗り越え、イタリアの建築界を支える重鎮たちが再び集まって顔を合わせられたことに、この上なく感慨深いものがありました。

カポキン会長(左)とガッビアーニ会長。

授賞式会場となった石切場「Cava Arcari

授賞式で楯を受け取る桐本氏。

賞式の会場は、前回の受賞作品でもある郊外の山中に位置する「アルカリ採石場( Cava Arcari)」。石切場だった跡をデヴィッド・チッパーフィールド卿が再生し、現在は半屋外のイベント会場として活用されています。内部は涼しく快適で、生オーケストラによる演奏の音響効果も素晴らしく、透き通った水をたたえた様子はまるで神殿遺跡のような荘厳さに包まれています。

 チッパーフィールド卿は受賞した際に「空虚から生まれ、わずかな介入によって場の魅力と特徴を強調する多機能空間を生み出し、詩的な次元で人間と自然の新しい関係を定義する」と作品について語っています。

回の大賞を受賞したのは、スペインの建築スタジオH Arquitectesによる小さなワイナリーのプロジェクトです。ワインの産地である人口わずか200人の村に建てられた作品は、教会に隣接するという歴史的コンテクストに相まった外観や素材、外部への開放感、内部のローテクな空調システムやサスティナブルでありながら現代的デザインである点など、多角的に高い評価を得ました。
 佳作には3作品、特別賞に2作品選ばれた中で、特筆すべきは佳作を受賞したイタリア人と日本人によるローマ拠点の建築ユニットAlvisi Kirimotoの集合住宅です。桐本潤子氏は高松伸、妹島和世、マッシミリアーノ・フクサスなどの建築事務所で研鑽を積み、今後ますますの活躍が期待されます。
 佳作は他にフランスの建築事務所TITANによる公共広場、スペインのParedes Pedrosa Arquitectosによる図書館が受賞しました。

①②大賞を受賞したH Arquitectesのワイナリー「Clos Pachem 1507

場で建築家たちが歓談している中で印象的だったのは、「この2年は現場が止まったり、世界的な輸送コスト高騰の影響で発注していた建材が届かなかったり、そのために設計に変更が生じたり、振り回され続けてきた。それでもやるしかない」という、苦境にあっても生活や都市空間をより良くしたいと願う建築家としての前向きな本音でした。

③佳作のTITANによる公共広場 Versus

④佳作のAlvisi Kirimotoによる集合住宅「Viale Giulini Affordable Housing

⑤佳作のParedes Pedrosa Arquitectosによる図書館「Córdoba Public Library

街中の広場で開催される受賞者展覧会。

桐本潤子氏。

写真提供/Adrià Goula/Jesús Granada (①②)、Julien Lanoom (③)、Marco Cappelletti (④)、Fernando Alda (⑤)

文・写真/

西村 清佳 Sayaka Nishimura

東京芸術大学大学院建築理論修了後、イタリア政府給費留学生として渡伊、現在トリノ在住。イベントコーディネーターとして日系企業や日本人デザイナーの見本市や展覧会をサポート、及び取材記事を執筆。私生活では1900年代建造の工場跡の1コマを購入してマイホームにリノベーションし、インスタグラムで工事の経過やイタリアのインテリアの最新トレンドを発信。
Instagram
@sayakina_italy