昨年は2年半ぶりに、イタリア4都市で街をあげてのオープンハウスが行われました。街中の住宅や社屋などを見学できるイベントで、北のトリノからミラノ、ローマを経てナポリへと順に開催都市が移動。先陣を切ったトリノでは100を超える物件が9月の週末に一般公開されました。特にこの2年の間に竣工した住宅の中には、コロナ禍の実体験が生かされたと思われるアイディアも見出すことができて興味深い開催となりました。今回は4件の住宅のリノベ案件に絞ってご紹介します。
1件目は、39平米のアパートを見事に居心地の良い自宅にリノベした案件「Luini」。若い建築家のダヴィデさんがオーナーで、2020年竣工、狭い空間を最大限に活用するアイディアに溢れています。特に自宅でのスマートワークに対応できるよう可動式のデスクを設けたベッドルームと、リビングへと変容する収納型のコンパクトなキッチンが特徴です。
①ベッドルームの窓際にデスクを造作。
②デスクを使わないときは畳んで収納できる。「Luini」
③収納型キッチンが開放された状態。
④扉を閉めてキッチンを隠すとすっきりした印象に。「Luini」
次にご紹介するのは、街の中央に位置するかつての自動車修理工場をリノベした「LOFT M50」。2021年に竣工したばかりで、オーナーはインテリアデザイナーのパオラさん。元工場というダイナミックな空間を生かした設計で、大きな開口部からさんさんと陽が差し込む白いロフトには、パオラさんの好きな黒いインテリアがアクセントになっています。
⑤梁や柱など既存の構造を⽣かしたリノベ。
⑥修理⼯場跡のダイナミックな空間構成を⽣かしたロフト。「LOFT M50」
3件目は、集合住宅のガレージを大胆に住宅へとリノベした「LOFT 92」。プロジェクトはオーナーで写真家のエリーザさんによるもので、撮影スタジオとして対応できるよう屋根には天窓があり、可動式ベッドをどければスタジオに早変わり。〝ソーシャルテーブル〟と称する大テーブルが置かれたリビングは、コワーキングスペースとして普段から開放。夜はソーシャルキッチンとして、週替わりでシェフを招いて食イベントを開催するなど、67平米の1LDKとは思えない、自宅兼スタジオを超えて多様に変容する可能性を秘めたソーシャルコミュニティーの中核を作り上げました。
最後にご紹介するのが、筆者の新居でもある「Terrazza Dora」。120年前に建設された繊維工場をリノベした住宅で竣工は2020年夏。ようやく念願のオープンハウスに漕ぎ着けて一般公開することができました。見学者は2日間でおよそ360人。広いテラスを利用したガーデニング、家庭菜園での野菜作りやバーベキューなど自宅にいながら屋外空間を満喫できるライフスタイルは、多くのビジターの共感を得ました。
家とは本来、建築作品である以上に住み手のライフスタイルをどう反映できるかが大切で、オープンハウスはそのノウハウを垣間見るよい機会だと思います。
⑩テラスにビジターを迎えプレゼン中。
⑪⼯場跡を 2020 年にリノベした筆者の家。
⑫イベントのポスターや Domus にも掲載された和室とバスルーム。「Terrazza Dora」
写真
Alessandro Santi(①②③④)、Paola Marè(⑤⑥)、Elisa Carucci(⑦⑧⑨)、⻄村清佳(⑩⑪)、Fabio Oggero(⑫)
文・写真/
西村 清佳 Sayaka Nishimura
@sayakina_italy