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2年半ぶりにミラノサローネ開催!

年春に開催されてきた世界一の規模を誇るデザインの祭典ミラノサローネは、今年は9月5日から10日まで2年半ぶりに特別展「スーパーサローネ」と銘打って無事に開催されました。イタリア国内外から425ブランドが出展、6日間の期間で来場者数は6万人を記録し、うち3割は100ヵ国を超える海外からの来場者でした。
 安全対策も万全に見本市形式での開催に漕ぎ着けたことで、ミラノの街は再び活気と自信を取り戻しました。人と人がデザインを介して直接出会う場となるサローネで、デジタルプラットフォームや配信形式のイベントとはまた違う臨場感のあるシナジーが見受けられました。
 展示空間はソーシャルディスタンスを意識して改良され、展示ブースの間に間仕切りもなく、植栽やレストスペースが程よく分散され、とても広々と開放的で見学しやすい会場構成だったと思います。

マッシミリアーノ・フクサス設計の見本市会場の様子。

 今はステイホームの新しい生活様式への順応性を求められる中で、インテリア業界がコロナ禍直後の見本市でどのように呼応するか注目されていました。その状況に対し、多くの出展企業はデザイン目線で奇をてらうことなく、基本に立ち返る形での従来の家具や、かつての作品の中から多くの人に愛されたアイコニックな逸品を展示する傾向があったように思われます。
 言うならば今までのサローネは人が家で使う「家具」よりデザイナーの「作品」としてのアイデンティティが強く、「これ素敵! でもうちには置けない」というものも多かったのに比べ、今回は「これ素敵! ぜひうちに欲しい!」と、イマジネーションを膨らませることができる展示でした。

レストスペースも企画展示もオープンスペースに配置。

カルテル(Kartell)は歴代のアイコニックな逸品を展示

マジス(Magis)のソファの座り心地を確認できるのも見本市ならでは。

でもオーダーメイドの布張りのソファやカウチなど、家のくつろぎ空間となる場を演出する家具の展示が注目を集めたように思います。家に求められる「最もオフでいられる場」を演出するのに最適な家具は、妥協せずじっくり選ぶべきということなのかもしれません。こういった家具はネットで眺めるだけでなく、実際に見て触って座ってみると違いを肌で体感することができます。その意味で、サローネの意義と重要性も再認識しました。

ディスタンスの意識されたソファの設計。

 タリアの巨匠デザイナー、ミケーレ・デ・ルッキは講演会でこのように言っていました。
「今のデザイナーたちは恐らく、かつてないほどに怖気付いているかもしれない。でも我々に与えられた使命は、『過去から受け取ったものを継承しつつ、今より少しでも良い未来を創造する』ということだ。それには勿論、未来に必要ないことは忘れるということも含まれる。単に線を引き、形を作り、素材を決めるのはデザインとは言わない。より良い未来を創り上げることがデザインだ。勇気を持って」
 大御所デザイナーの明るい未来に向けて希望の持てるエールに、多くの来場者が励まされていたように思います。

オーストリアのトーネット( Thonet)は、定番の曲木椅子を現代風にアレンジ。
イタリアのサニタリーブランド、チエロ( Cielo)はパステルカラーシリーズを展開。
ミケーレ・デ・ルッキの講演会。

文・写真/

西村 清佳 Sayaka Nishimura

東京芸術大学大学院建築理論修了後、イタリア政府給費留学生として渡伊、現在トリノ在住。イベントコーディネーターとして日系企業や日本人デザイナーの見本市や展覧会をサポート、及び取材記事を執筆。私生活では1900年代建造の工場跡の1コマを購入してマイホームにリノベーションし、インスタグラムで工事の経過やイタリアのインテリアの最新トレンドを発信。
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