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初夏のオープンハウスでお宅拝見!

6月最初の週末に、北イタリアのトリノで街をあげてのオープンハウスが開催されました。普段は見ることができない個人住宅、社屋や歴史的建造物、工事現場などを無料で一般公開する催しです。
 3回目となる今年は、住宅を中心に150件近い物件が公開され、2万5千人もの参加者が延べ6万件を見学しました。人気が予想された物件はオンライン予約制でしたが、全て瞬時に満杯になり、週末は街じゅうあちこちに行列が見受けられ、住む街に対するイタリア人たちの好奇心と興味深さを物語っていました。

られた時間の中で、今回は「住宅ではなかった既存の建物を改築した住宅」に絞って見学してきました。イタリアならではの古い建物の中で、どうやって現代の生活スタイルと折り合いをつけているのかが垣間見られます。

繊維工場の最上階を改築した売り出し中のペントハウス。

ずは1900年代前半に建てられた工場跡を改築した最上階のロフト。ジャーナリストのエンリコさんが8年前に購入した家で、当時はまだ周辺の地価が安かったそうです。インテリアもイケアなどで抑えられる経費は抑え、その後結婚し子供が生まれてから増築するなど、生活サイズに見合った家を少しずつ作り上げていった経緯を語ってくれました。「誰に何と言われても、手放す気になれない」と言い切る姿に、自分の家に対する愛着と自負心が見て取れました。

繊維工場跡の最上階を改築したエンリコさんのロフト。

はデザイン雑誌ELLE DECORの編集者であるヴァレリアさんとご主人、中学生の息子さんが3人で住む、郊外の3階建てルーフテラス付き一軒家。この区画は交通や治安の面からは良いとは言えない地域で、2006年に自動車整備用ガレージと事務所だった物件を買った当初は周り中が心配したそうです。ここからヴァレリアさんは、職場のあるミラノまで毎日1時間かけて電車通勤しています。ご主人が毎日車で息子さんを学校へ、ヴァレリアさんを駅まで送っているそうで、それだけの不便をものともせず、「今ではこの家にミラノからも友達が大勢遊びに来ては褒めてくれるのよ」と誇らしげに語る姿に、自分たちの理想の家を作り上げたという自信が感じられました。

郊外の閑静な住宅街に建つヴァレリアさんの家
ルーフテラスに繋がる広々としたリビングダイニング

後は建築家のステファノさんが住む、かつて映画館だった建物を2013年に住宅に改築した、地上2階地下1階のロフト。交通量の多い通りに面しているにも関わらず、中庭の緑がまるで別世界のような静けさと涼しさを保っています。地下にはサウナとジャクジーまで完備した秘密基地のようなジム(非公開)があり、寝室とバスルームなどプライベートな空間を全てロフト階に収め、地上階を開放的なリビングダイニングにすることで、地下を訪れる友達と気軽に使える空間になっています。

映画館を改築したステファノさんのロフト※
ロフトから中庭の眺め。

その他、いくつもの住宅を見学した中で振り返ってみると、オープンハウスの趣旨は単なる好奇心を満足させるお宅拝見ではないことに気がつきます。建築家ではなく住み手が自分の家のこだわりポイントを誇らしげに語る姿が印象的でした。家をオープンにする根底にあるのは、オープンなメンタリティー。それぞれライフスタイル、家に対する愛着、家族像などが異なる中で、それを公開しシェアすることによって生まれる「自分の価値観は人とは違っていてよい」という実感と、さらに自分が住む街を新たな視点で見ることができるという発見が、新鮮な感触として残りました。

写真/プレス資料(※)、西村清佳(※以外)

文・写真/

西村 清佳 Sayaka Nishimura

東京芸術大学大学院建築理論修了後、イタリア政府給費留学生として渡伊、現在トリノ在住。イベントコーディネーターとして日系企業や日本人デザイナーの見本市や展覧会をサポート、及び取材記事を執筆。私生活では1900年代建造の工場跡の1コマを購入してマイホームにリノベーションし、インスタグラムで工事の経過やイタリアのインテリアの最新トレンドを発信。
Instagram
@sayakina_italy