HOME | コラム集 | イタリア通信 | 修復再生され新旧が融合する イタリアの建築事情

修復再生され新旧が融合する
イタリアの建築事情

タリアの建築を語る上で重要なキーワードに、レスタウロ(修復)という言葉があります。イタリアにおいて建築家の役割は、更地に新築のプロジェクトをゼロから設計することより、古い建物に対していかに現代のライフスタイルに適応した空間やインテリアを提案できるかということがとても重要になってきます。
 今回は、修復再生の視点からイタリアの事例を大小幾つか紹介します。

かつてのボールド天井がそのまま生かされた住宅。

つめは集合住宅です。ローマ時代には既に街が形成されていた歴史的保存地区に、16世紀半ばに修道院として建てられたパラッツォが時を経て音楽大学になり、更に地方裁判所となり、そして新たに集合住宅として生まれ変わりました。地下駐車場の工事中にローマ時代の貴重なモザイクの遺構が発見され、工事変更を余儀なくされるなどイタリアならではの出来事もあったそうで、モザイクもその後修復された上で一般公開されるそうです。用途が次々と変化していった中でも建物の基本的な構造は失わず、それが現代の住宅にも取り入れられ、生かされています。住宅の間取りは50平米程度のワンルームから200米を超える4LDKまで様々。1日単位で賃貸できるものから販売用までバリエーションがあり、現代人のライフスタイルに合わせて短期のシェアリングから永住まで対応できるようになっています。地階と地下にはジムと温水プールを備えたカイロプラティックのクリニックが入り、建物と街の境界を完全に遮断することなく曖昧にしています。

スタッコの装飾までひとつひとつ修復再生される。

つめは、歴史的パラッツォの最上階に位置するペントハウスです。1915年に銀行の社屋として建てられた優美なパラッツォは、1800年代に一世を風靡した曲線を多用するバロック様式を踏襲し、まるで中世の貴族の邸宅のようなエレガントさを備えています。その後、電力会社やラジオ局など様変わりしましたが、その間も建物に大きく手を加えられることはなく、2010年に最上階にオーナーのペントハウスが計画されました。外観からは全く想像できない緑に囲まれたペントハウスは、開口部を中庭に向けた設計によって、プライバシーを守りつつも太陽光を最大限に取り込むことに成功しています。

ガラスを多用しつつプライバシーは守られている。
開口部を中庭に向けることで外壁に手を加えずに採光。
まるで中世の貴族の邸宅のような石造りの地階。

後に紹介するのは、元鉄道工場がギャラリーやイベントスペース、レストラン、大学キャンパスなど複合文化施設として生まれ変わった事例です。産業革命の時代にできた工場が90年代前半に閉鎖された後、長いこと再利用方法が議論されてきました。2013年に修復再生される方針が決まり、2017年に新しく街の文化事業の中心へと生まれ変わりました。かつて工場だった趣を今に残すレンガと鉄骨構造の空間に、新たに加わった照明やアート作品、モダンなインテリアが色を添え、一見無骨になりがちな大空間を、生き生きとしたエンターテイメント空間に仕上げています。

レンガ構造がかつてを物語るギャラリーショップ。
鉄道工場として使われていた頃。
レンガと鉄骨の大空間が生かされたレストラン。

 今回は3事例を紹介しましたが、イタリアではこのような修復再生事例は枚挙に暇がありません。こうして過去を生きた建築は新しい息吹を与えられて現代に蘇り、また未来へと受け継がれていくのでしょう。

写真/西村 清佳

文・写真/

西村 清佳 Sayaka Nishimura

東京芸術大学大学院建築理論修了後、イタリア政府給費留学生として渡伊、現在トリノ在住。イベントコーディネーターとして日系企業や日本人デザイナーの見本市や展覧会をサポート、及び取材記事を執筆。私生活では1900年代建造の工場跡の1コマを購入してマイホームにリノベーションし、インスタグラムで工事の経過やイタリアのインテリアの最新トレンドを発信。
Instagram
@sayakina_italy