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街をあげてのオープンハウスへ!

ープンハウスとは建主が自邸を開放して関係者や知人などに見てもらうイベントです。自邸をこれから建築家に依頼したい人にとっては格好の「3Dで体感できるショールーム」になります。
 ヨーロッパでは、このオープンハウスを住宅1軒だけでなく街ぐるみであらゆる建築物を無料で一般公開する動きが1992年のロンドンを皮切りに始まりました。その動きはもはやヨーロッパのみならず中東、南米北米、アフリカからオーストラリアまで広がりを見せ、イタリアではローマ(2011年)、ミラノ(16年)に続いて北イタリアのトリノでも17年より開催されています。

都市のツリーハウスとして注目を浴びた
25 Verde 」に並ぶ参加者
街の一等地に建つ一番人気のあったペントハウス
  The Number 6 」。

年のトリノでは建築家が建主に依頼して公開する住宅を中心に、普段は一般人の入れない社屋や地下鉄の工事現場、修復中の考古学遺跡や再生計画中の工場跡など街じゅうに散らばる建築物140件が週末の2日間のみ一般公開されました。その中にはレンゾ・ピアノの設計による高層ビル、都市のツリーハウスとして竣工時に注目を浴びた集合住宅、15年に「世界で最も美しい住宅」に選ばれたペントハウスなども含まれていました。

街の一等地に建つ一番人気のあったペントハウス
  The Number 6 」。

夏の晴天に恵まれた週末の2日間は、いたる所で地図を広げながら「次はどこに行こう?」と検討する人々の様子が、まるで街を舞台にしたトレジャーハンティングのようでした。住宅では設計を担当した建築家がガイドを務め、言うなればインテリア雑誌のリアル体験ツアーのようです。イタリアでも知らない人の家を訪問する機会は滅多にないので、普段見ることのない他人の生活を垣間見られるのは好奇心をそそり、どこもかしこも大行列の人気ぶり。2日間で1万8千人の参加があり、中でも一番人気だった先述のペントハウスは完全予約制でしたが、予約開始後4分で3千人分の予約で埋まったそうです。
 街中の行列に並んでいる参加者は、「特に新居を探してるわけじゃない」「でも『美しいもの』はみんな見たいじゃない?」「美術館の展示を見るのとは違って、これは『体験』だから」「素敵なインテリア雑誌ではなく、実際に見て感じたい」など、建築関係者ではない地元の人たちが大半を占め、他人のライフスタイルを実際に肌で体感したいという好奇心が感じられました。

 
都市のツリーハウスとして注目を浴びた「 25 Verde」の外観。

宅を一般公開して他人を受け入れることに抵抗はなかったのだろうか? と思いきや、どこもフレンドリーな対応で、建築家としての宣伝活動よりも「自分たちが良いと思っているものを人にも見てほしい。それで見た人が何かを感じてくれたらそれで十分」という言葉に、建築家が建主だけでなく社会全体に対して提案するのは住宅という箱ではなくライフスタイルなのだということを実感させられました。また昨今のSNSで日常を公開し、シェアすることに対するハードルの低さも感じられ、何度も聞いた「ライフスタイルをシェアする」と言う言葉が印象的でした。
 どこの住宅もつい先日引っ越してきたばかりかのように、キッチンからバスルーム、リビングに至るまで綺麗に住んでいるのも驚きでした。イタリア人の主婦は、いつ誰が訪ねてきてもよいように住まいを整えていると聞いていたのを実感できました。

「木の間の家」と名付けられた閑静な住宅街の中庭に建つ住宅。
ミニマルな中庭が特徴的な内観。
郊外の丘の上に建つ、
自然に囲まれた建築家の自邸。
「シークレットガーデン」と名付けられた、庭の見事な 1920年代の邸宅。
「シークレットガーデン」天井は 1920年代のままモダンなインテリアを配置。

 オープンハウスは建築家や建主のお披露目の機会であるだけでなく、訪れた人がそれぞれのライフスタイルを見直したり刺激を受ける良い機会になるようです。

写真/Enrico Gandolfo

文・写真/

西村 清佳 Sayaka Nishimura

東京芸術大学大学院建築理論修了後、イタリア政府給費留学生として渡伊、現在トリノ在住。イベントコーディネーターとして日系企業や日本人デザイナーの見本市や展覧会をサポート、及び取材記事を執筆。私生活では1900年代建造の工場跡の1コマを購入してマイホームにリノベーションし、インスタグラムで工事の経過やイタリアのインテリアの最新トレンドを発信。
Instagram
@sayakina_italy